2018年08月27日

8月最終週 荒半泥週報

3週連続の大ヤマをどうにか乗り越え、ようやく一息。
たまってた雑事を片付け次第、自由を取り戻すぞ!
と思いながら最後のサフを吹いてたら、サフ用換気システムが壊れる。
片付けと作り直しで2日はまるまるとられそうでガックシ。

という状況の先週、またしても後手に回った展覧会をやっつけるべく
どうにか時間を作って太田記念美術館の落合芳幾展に行って来る。


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この人、なかなか振り返られない人物ですが、代表作といえば
浮世絵をバトル物ホラー物として興味を持つ人ならまず最初に触れるであろう
大傑作シリーズ

英名二十八衆句。


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有名極まりない・・・と言ってもここ最近定番化した感じで
昔はあんまり書物も出てなかった月岡芳年、が半分。

で、残りの半分を担当したのが芳幾で、気になる存在としては
芳年並みに心にひっかかってまして。

しかし抜きん出ているのはこれがメインで、他は???というのが多い。
つまり、なんというかハッキシ言って仕事に「ムラ」がある。

画業に専念した絵師と違い手抜きパクリで誤魔化したな、という流し作品と
何が彼をそうさせたのか?というきらめく作品のギャップが凄い。


例えば


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これなんか本当に凄い。まったく芳年にヒケをとってない。


落ちた八間(広間用の釣行燈。吉原遊郭にはよくある)


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の内側に溜まったススが被害者の手に、そしてその手のススが加害者
佐野治郎左衛門の足にという経過表現のドラマチックさ。

籠で作った釣瓶のように水さえとどまらぬ切れ味の妖刀
籠釣瓶に取り憑かれて暴れる狂乱ぶりがよく伝わってきます。



一方、ギャグセンスも素晴らしく、師匠国芳にヒケととらない脱力感。



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これも、よほどのサジ加減で出来ていると思います。
先頭の幻覚体験中にも関わらず可愛さ爆発の片足上げ。魔法少女か。



しかしやる気ゼロの作品も多いんすよね。平気で構図を丸パクったり。
まさに商業的というか、置きに行ってる器用さが目に付く。

で、画業で抜きん出てないのに国芳一門の中で立場は低いわけでもなく
信頼感もあるエピソードを聞いたりして、いまいち人物像がよくわからない。


俺の中では、なんというかカイユボットに近い印象がありまして。
潜在的な能力の高さ、画業への執着心のなさ、知的好奇心が旺盛、
周囲との交渉能力の高さ、リーダーシップといい加減さの混在
などでしょうかね。

中でも最も気になってたのが、ご維新後、いろいろ厄介な時世の中
新聞社設立の発起人になってたこと。

一介の絵師が下請けで新聞絵を引き受けるのは理解できる。

じゃなくて発起人ってことは、企画段階からいろいろ提案して関わって
交渉して実行してその位置についたと考えられるわけで、画業専念型の
身の振り方とは思えないわけです。


そして驚いたのはそこで描いた絵

中でも、これ


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時代が移り行く中、近代化という暴力的とさえ言えるほど強引な
意識改革が強いられる中、消えゆく古き良き、そしてはかなき物に対して
人々がどんな思いを抱いていたのかは、明治維新を考えるうえで
非常に重要な要素と俺は思ってます。

背伸びして西洋を取り入れ、過去あったものを急に否定する世の流れで
新聞は、瓦版以上であろうとしつつ、新政府の顔色もうかがいつつの
複雑な立ち位置だったろうと思われるわけですが、そこでこの絵。

こういうお化け話は文明開化にはそぐわぬよ、と一応言いつつも
子を案じて化けて出る母の心根のこの描き具合!

上手い!
し、泣けるし!


人に届く絵、作品を作れる人は稀です。

たぶん理想がない人には、そういう「届くもの」は作れないんだと思う。
じゃあ理想があれば出来るのかっつーとそんなこともなく
届ける為の努力と精進は不可欠。その両方が揃ってこそ。

ただ興味深いのは、その能力がありながらもいろいろ気が散っちゃって
とにかくいろんな事をやりたい芳幾の性分。江戸っ子っぽい。

そんな人となりが感じられた実にいい、しばらく話題の尽きない展覧会でした。



で、話は変わりますが先日、ようやくたまった字幕物で見たのが

これ。


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いまさら感ハンパないすが、見ましたんです、ようやく。


ここでホドロフスキーは本人の言う「魂の戦士」の浮き沈みをまんま見せてくれます。
当代最高の技術屋を「奴には魂がない、技術の映画だけ作ってればいい」と両断し
まだ見ぬ傑作に向けて「魂の戦士」を集めて行く狂気の大冒険。面白すぎる。

もともと映画屋としてのホドロフスキーは俺の専門外。
というかもう完全に生理的に受け付けない。



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(映画主演中のホドロフスキー)

もうこんなアングラ野郎の映画、男度燃え度ゼロ。時間の無駄でしかない。


しかし現実の本人は極めて知的かつ教養が高く、情熱的で理性的。
でたらめぶりというか、テキトーぶりも目立つものの男度100。

理屈は小学生レベルで、やってる事は大学生。
しかし残した物と影響は「偉業」としか例えようがない稀有なもので
もうこの「人たらし!」と思っちゃうくらい魅力的。


理想を持ってモノを作ろうとすることの、潜在的な危険性とロマンを
これほど感じさせてくれるドキュメンタリーもありませんでした。


中でも素晴らしかったのはキャスト選びの際に登場する
デビッドキャラダインに60ドル分のビタミン錠剤を一気飲みされた時の
エロエロエロ!と逆ゲロ的飲み真似の上手さ。


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ホドロフスキーの観察力と再現力の高さを伺い知れます。

そして人には届かなかったけど「残せるものがある」という
にわかには信じがたい現実も見ることが出来、非常に考えさせられました。



一つ事に専念する。



俺にはなかなかこれが出来ないんだよなー、と反省させられる
芳幾とアレハンドロの生きざまでありました。
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2018年08月20日

8月第3週 ノーローズ週報

先日、一仕事終えてゆっくりしつつ、俺お疲れさんの癒しタイムで
ようやく待望のトレマーズの新作を見る。


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a cold day in hellは、寒い場所を舞台ということと、グラボイズが
寒いところで生息するわけがないという「ありえない状況」をさした
ダブルミーニング。
前回はアフリカ、今度は新たな舞台でどんだけやるのか、と期待してたら


北極圏のシーンを


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カツドウ屋魂炸裂、コントラスト上げーの色飛ばしーので



実は近場の砂漠で片づけた。


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いわゆるデイフォーナイト、通称アメリカの夜は


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フィルターをかけて日中の撮影を夜間撮影に見せるものですが
砂漠の撮影を白飛ばして青みかけて雪原に変換するのは
なんつーのかわかりませんが、なかなかの荒業。
感動しました。ガッツがある。
どう見ても完全に砂場の猿芝居だが、俺には雪が感じられた。

サメ映画にありがちな全然合わないCGを、いいやこれで、と思って
重ねる連中とは完全に一線を画しており、ここあるのは創意工夫。
ま、若干の諦観があったとしても、映画表現そのものをナメてないのは
たしかです。

モノを作る場合、いろんなパターンがありますが、こと娯楽においては
ビジョンをしっかり備えたものが面白いのがほとんどです。

何をやりたいかを作り手が理解していて、その為に手を尽くしている場合
多少の失敗やチープさが足を引っ張ってもちゃんとゴールにたどり着ける。
その努力が伝わってきたからこそ、俺も雪に見立てよう!と歩み寄れるのかも。

場合によってはそのチープな必死さがそういう魅力を放ったりするけど
客をナメてるチープさはまったく魅力を放たない。ただの手抜き。不努力。
そこには大きな隔たりがあります。


先日、ひさびさにストレッチマンを見かけたのは特撮紹介番組。


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ここで爆発の手前を走らされるんだけど「走らされてる感」が
どうにも心地いい。

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ちなみに俺の持ってるローズちゃんは

これ


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ガキの段階で俺はだいぶヒネてたので、怪獣や怪人が本当にいると
感じた事はありません。誰かが着てるとしか認識してない。
でもだからと言って、物語に没入出来ないわけではなく必死に演じる
誰かの存在も感じつつ、普通に応援は出来るし、涙も流せる。

でも、やっぱり誰かが無理やりぬいぐるみ着させられて
「やらされてる感」を感じてるわけです。

ところがこのやらされてる感が心地いいと言った通り、俺には凄く
安心できる要素。分別のある人間が、仕事の為に仕方なく、しかし
責任をもってゴール目指してるからこそ面白いんであって、学生の悪ふざけ的な
悪のり要素や、これでいいだろという客ナメを感じると途端に興ざめしてしまう。

本気でやって足りてないのは愛せるけど、別に足りてなくて何が悪いの
と開き直った情熱のないものは、すぐわかっちゃうし愛せない。

たぶん、誰かが頑張ってるのが好きなんだと思います。
ヒーローのマスクの下にある、どこかのおじさんの汗だくな
頑張りがヒーロー像にプラスされてんだと思います。
そこから勇気や喜びがもらえる。

必死で駆け抜けるストレッチマンと、必死で砂漠を北極圏に変えようとした
トレマーズ見て、頑張るって大事だぜ、って考えたっつーどうでもいい話。

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2018年08月13日

8月第3週 プラネテ週報

さて、ようやくですがプラネット話。

先日のWFで発表された稲坂原型のプラネットマン。


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俺はWF数日前に原型写真を見せてもらってまして、その時に
感想は伝えてありました。

俺が見せてもらった段階で、いろんなパーツはすでに出来ていて
あとは構成や調整を行うつもりだけど、現段階ではこれで
とりあえず発表しようと思います、という話。


で、当日、ようやく展示とあいなりましたが、あんだけすったもんだ
他人の意見が錯綜した後の発表だから今日は荒れるぞ、
楽しみだぜとか言いながら帰りの車の中で稲坂君をからかってたわけですが
案の定、帰ってネットを見てみればなかなか愉快な反応の数々。
その後ちょっと本人とも電話で話したけど、まー俺は爆笑です。
いろいろ文句、面白い。

稲坂ブログの書き込み見る限り、どんだけ興奮すんだよ、と思ったけど
逆に言えば、そんだけ気になるのは全然素晴らしい反応です。
発表して反応がないのが一番キツイすからね。



で、最初に見た俺の感想は、ですが

基本、造型やパーツ構成はいい。

これが6騎士かっつーと微妙な反応する声がありそうだけど
CMCでプラネットマンでメインのポーズであれば
おそらく俺もこのポーズをチョイスした。と、

チョイスに関しては賛否両論は出たとしてもプラネットマン独特の
違いすぎるフォルムゆえだから、商品出ても気持ちのいい落としどころは
ないまま、ずっと悩むと思う。という感じ。

ま、これに限らず基本的に後悔のない原型なんてなく、原型師は
締め切りがなければ永遠にいじり続けられるんで、どこかで
線を引かなきゃいけない。その時のベスト、で区切るしかないわけです。
絶対的な部分がないもので、区切りをつけなきゃいけないのが
現実で、いつまでもウダウダ言ってられないわけで、決断はしなきゃいけない。

この決断、が仕事の基本です。ひとつひとつ決断して前に進む。

ただ今回の造型の場合一番大きいのは、俺はただの原型を作るだけなのに対し
稲坂君の立場は、彩色して、それを量産に落とし込んで、なおかつクオリティを
維持しなければという事まで背負ってる。立場の違いによるアプローチの違いがそこにある。

それを加味したうえで感想に追加したのは

色が塗って化けるのを前提にキャンバスとして余裕を持ってる感じは
正解だと思う、という事。

化ける余地。これは重要。デカいんす。伸びしろと言ってもいい。

原型師はただ作るだけじゃなく、どう色が乗るかを予想して作るし
どう生産されるかを予想してパーツを構成します。

例えば明るい色が乗るとわかっている部分は、気持ち深めに作ったり
黒い部分は気持ち大き目に作ったりという、色の印象によって生まれる
差異を造型であらかじめ埋めておくとかは普通に考えること。
原型の場合で成立しても、製品化して収縮の読みが甘かったり
彩色されて印象がマイナス方向に行くなら、失敗原型ってことになります。

加えてディティールを盛り込んで作ったものがいい「商品」になる保証は
まったくありません。商品に落とし込めない独りよがりな造型は
「製品原型未満」もしくはいわゆる「ゲージュツ品」です。
芸術品ではなくゲージュツ品なのは、他人のアイデアで作ってる
レベルの低い2次創作程度、という意味で、おのれの判断で何にも
頼らず生み出す真の芸術とはウンドロの差があります。


大手の会社だと原型を作り散らかして丸投げしても大丈夫ですが
CCPや小さな会社では、かなり生産に対してのアドバンテージを
計算しながらの造型になります。

加えて今回はスタジオ24での生産となるのであれば、どう組んで
どう塗って、どう発送するかまで見てる上での計算の末、の造型。

ゆえに、トータルで見るとどうしても冒険少な目の造型に
なってしまう。俺だったら原型だけで納得させればいいだけだけど
最終的な商品としての責任を見据える立場の稲坂君だとそうはいかない。

自社工房で組めない塗れないのを作ってもしょうがない。
正しい労力配分を考えた末だというのが見てとれる。

で、塗ればここまで化けるという、どっちかというと奇抜な造型より
製品としての「塗り」を見せる商品になると予想するのであれば
妙な動きのある造型は、製品の邪魔になる可能性もあるわけです。

だからどっちかっつーと静かな原型になったのはわかる。
色の力を予測して、化ける度合いを読んだ、と。
ならばこの状態でも十分ポテンシャルがある、と。なるほど。



しかーし

それは理解も出来るが、「置きに行った」とも言える。

仮にキャンバスとしての余地を考慮したとしても
もうちょいプラネットマンとしての魅力を考えられたんじゃねーの?
絵合わせ優先で「間違えない」造型をしただけで、原型師としては
もう何歩か踏み込んだ方が面白くない?という意見は言いました。

ゼロから作る人間は、すべて自力で固めて目を配らなければいけない。
まずはゼロから、まな板に乗る部分まで立ち上げるのが厄介。
立ち上げるのに精いっぱいで、表現まで気が回らないことは多々ある。

とはいえ、プロである限りそうそう言い訳もしてられんぜ、と。
同じポーズだとしても、こういう味付けもあるだろうよ、と。

そしたらそのあたりは本人も自覚しているので、この後、まだ原型を
いじると言ってるから、そんじゃあいいんじゃねーの?と。
パーツや改善の可能性は見えてるし、製品クオリティも見えてる。
だったら特に心配ない、って感じで。

という話は、WF展示前に終了してて、まああんな反応を
俺はヘラヘラ笑って見てたわけです。


さて、というのがプラネットに関する具体的な感想話で、ここから先は
もうちょい踏み込んだ話。


今回、多くの意見を聞いて造型に反映しようとした稲坂君のやり方は
俺個人から見ると、どーしょもねー無駄だな、と思います。

責任を伴わない意見は、やっぱし便所の落書きなわけです。
例えば普段真剣に料理を食って分析したり、研究したり自分で
試してみたりしたことない人が、これは美味い、不味いを言ったところで
まったく指針となる根拠がない限り、ただのひとつの主観でしかない。
根拠のない主観、つまり「俺的にはこう思う」「あたし的にこうしかない」という
意見は、あ、そう、以上にならないわけです。
お前の口に合う合わないの話ではあっても、良し悪しとは違う話。
そんなの100聞いたところでクソの役にも立たない、と俺は思ってます。
冷静な分析とか、よほど情熱的な主観を持ってれば別ですけどね。

稲坂君にもよく言ってますが、チリはいくらつもってもチリ。
絶対に山にはならない。山になるにはマグマでもなんでも
地面を持ち上げるパワーが必要であって、吹けば飛ぶような
チリアクタをいくら集めても、なんの役にも立たない。
君こそが燃えるマグマであれ、と。


でもダイナマイトも稲坂君も、意見を聞こうとするんだなー。
アンケートとかではなく、意見。主観を集めようとする。

その場合、声のデカイ反対意見と、黙ってる賛成意見をきちんと
把握することは出来ない。公平とは程遠い状況を演出してるわけです。
科学的でもなく誤謬に満ちた、空しい作業です。


なのに耳を傾けて、意見を聞いて、扉を開こうとするのはなぜか?


おそらくそれが、そうありたいと信じた彼のメーカーの姿勢なんでしょう。
そういう姿勢を、ファイティングポーズをとることが
信頼につながると信じているからこそ、意見を聞くんだと思います。

誠意をもって製作プロセスを開示することで、少しでもユーザーに
ストレスを感じさせないようにと試行錯誤してるんだと。
果たして今後それが彼にとっての誇りとなるのか、負担となるのか。

俺は彼が選んだ茨の道の結果がどう出るのか非常に楽しみです。
CCPのように調子に乗ってワケのわかんない注文を連発する
子供みたいなユーザーに取り囲まれるのか、努力の価値を知って
育てるに足るメーカーと認識した新しいユーザーが増えるのか。

メーカーとしての立場を選んだのであれば、断固姿勢を貫き
どんな意見も飲み込んで消化し、血肉に変えて、
「結果」で答えを出して欲しいもんです。

プラネットの最終原型はネジケン発送の後、ようやく着手でしょうから
まだまだ全然先。気長に待つがいいです。
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2018年08月06日

8月第2週 ワカゾー週報

ガキの頃に狼男アメリカンやスリラーのPVを見てショックを受け
リックベイカーの存在を知り、特殊メイクの道に進む!と決心しました。


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知恵と工夫を凝らして、こんなことばっかやって生きていけたら最高。
一生遊んで暮らすってのはこういう事。


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しかしその当時は本が1冊出たくらいで、まだまだ特殊メイクを
どうやって始めていいのかわからないくらいの時代。

樹脂石膏が欲しければ、何軒も歯科医を回ってサンプルをもらって
それでようやく1回分の量を手に入れ、貴重な勝負に出るという感じ。
普通の石膏やラテックスは、バイトして月に1回東京に買い出しに行き
これもようやく手に入れるという感じ。

同じ趣味を持った仲間もなく、一人で試行錯誤するのみ。

高校に入って進路を決めなきゃいけない時も、俺は後々アメリカに
行って特殊メイクの仕事につくと思いこんでました。
アメリカで一番役に立ちそうなバイトとして、寿司屋でバイトして
どうにか手に職つけようとしたり。

とりあえず、東京に出て一人暮らしだ、まずは映画に名前が出るまで
故郷には帰るまい!とこれまた必死でバイトして金貯めて
上京してみたものの、働きたかった会社は移転してて、その駐車場で
男泣きに泣いた18の春。バカの見本。ザ・無計画。砂漠だぜ東京。

もうなんの為に上京したのかわからない。希望は一瞬で絶望に。
アテもないとはまさにこのこと。マジでタイムマシンがあったら
あの頃の自分のとこに行って、頭の形が変わるくらいのゲンコツ叩き込む。

で、さあどうしようと思ったけど、とにかく作ってゲリラ戦に持ち込むしかない。
雑誌やTVでイベントあればそれ狙ったり、どんどん自力でと作戦変更。


そんな頃、造型の材料を注文した材料屋さんが自宅に配達に来てくれまして。
その材料屋が、鯨井実さん。

あの鯨井さんですか!?と驚愕しました。

上京前、帝都物語で式神を作った若手造型集団ガラパゴス。
当時のスターログにガラパゴスは住所が載ってて、手紙を書いて
作品を見てもらいに上京したもんですが、もう1人、式神を
作っていたのが鯨井さん。


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メイキング本の写真を見て、プロフィールも知ってました。
最初はアニメーターでサリーちゃんよりも前から頑張っており、


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そののちアステカイザーやタロウやレオの合成、光線作画などやられ
俺には憧れの「好きな事で戦えてるプロ」だったわけです。
後に判明しますが、造形仕事の傍ら、材料を多めに仕入れて配達までする
わかってる″材料屋として有名だったんですね。


一人暮らし始めたての初々しく可愛い坊ちゃんの俺に
えらく優しい表情で「こういうの好きなの?」とニコニコ尋ねてくれ
ここぞとばかりに、作品集見てください!とポートフォリオを渡した瞬間を
今でもはっきり覚えてます。月3万2千円の調布のボロアパートの玄関で。


ちなみに今回のWFで原型師希望の若者にポートフォリオを
見せてもらいましたが、当時の俺の1000倍上手かったです。
いやー、時代だなー、みんなすげー上手くなってんなー、
学校あるんだもんなー、写真もキレイだなー。
今生まれてたら俺この方向を選んだろうか?とか思ったり。


で、話は戻りますが作品集を見た鯨井さんが(たぶんそれはそれとして、で)
今、人手が足りないんだけど、手伝えたりする?と聞いてくれまして。



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即、土下座。高山彦九郎ばりの。


たぶん人生この1回だと思う土下座して、使ってください!とお願いしました。
給料はいりません、使っていただくだけで!!と懇願するバカ者に
「もちろん仕事なんだからお金は払うよ」とニコニコの鯨井さん。

絶望が希望に変わった瞬間。上京してよかった!!東京最高!
チャンスはどこにでも転がってる!(←バカ)


それから鯨井さんの工房でお手伝いを始めたのはいいんですが・・・

こ、怖い!

仕事が始まると、チョー怖い。いや、怖くはないんですが
こっちの緊張もあいまって、もう萎縮するったらない。
配達用の車には暴漢対策とはいえ木刀積んでるし、やっぱり怖い。
ほぼ鬼。

昼飯は御馳走になれるんですが、何を頼んでいいのかも
18の若者にはよくわからない。間違えた手順で仕事を進めてたら
「誰が笠井くんにこれ任せたの!」と俺以外の人も怒られる。

そもそも相当生意気で鼻ッパシラが強い俺でしたが、そんな思いこみが
まったく通用しない世界に、調子こいた田舎小僧の鼻ッパシラは




ほぼデスロックくらいまで削られました。

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それまで触れたことない緊張感が工房にあった理由を考えるに
映像の締め切りのキツさってのは想像以上で、映画やCMの造型は撮影日が
決まっているのを絶対に動かせない。機材やスタジオ、役者から
全部ブッキングし直すのは不可能なんで、こっち都合での締め切り変更は
ありえないんですね。本当の本当にその締め切りがのりしろが全然ない
完全なデッドエンド。個人の締め切りとはまったく意味合いが違う。
だからもう絶対ったら絶対で、死ぬ気で間に合わすしかない。
必然的にスケジューリングは命がけとなりました。
そのヒリつきがあったのかも。

でもここでの社会経験が今の俺のすべての基本となってると思います。
ここで揉まれたおかげで、命のブーストのかけ方、自分のポテンシャル
常識では一歩引く場面でも、踏み込んで活路を開くやり方を学びました。



朝一番で工房に来る鯨井さんはいつも手に小さなメモを持ってて
今日の作業のToDoリストを作ってまして。

柱に貼られるそのメモを見てとにかくその日が決まる。
まずはメモの内容をこなすしかなく、必死に仕事覚えて必死について行く。
何度もその小さなメモを確認して、次の作業の準備をしたもんです。


でも毎日が感動すよ。楽しくってしょうがない。

これが映画に出るんだ、これがCMで使われるんだ、とネジ一つでも
ときめかないパーツなんかないくらい幸福な造型の日々でもありました。
ちょっと出たゴミすら嬉しい。ああこれが映画に!って。
夢と希望と理想が常に渦巻いてて、楽しくって楽しくって。
撮影に行くのもチョー楽しみ。CMは弁当豪華だし。
毎日が祭りだって言っていいくらい。


しかし最初に映画に名前が出るかもしれない仕事の中、
俺は出勤途中で原チャリでコケて骨折。
不慮の事故とはいえ、俺が不注意だったのも事実。
一人暮らしの若者には痛恨の大惨事。

でも念願の名前が出そうな映画仕事。養生なんて選択肢はない。
幸い手先は器用だし、材料も扱えるってことで、自分で石膏包帯で
ギプスを作って翌日から工房までチャリで往復10kmを毎日通いまして。

骨折のままびっこひきひき香港ロケにも参加出来て、やっぱり楽しい事ばかり。


その時の給料、骨折したのに休まず働いてくれてありがとね、と
鯨井さんは頑張り代として臨時ボーナスを10万(あれ5万だったかな)くれました。



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(初めて画面に映る造型をやらせてもらった孔雀王ラーガ、作ったのは
上半身をちぎられた時にはみ出た腸。やらせてもらえて腸嬉しかった。)



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(1か月間、ロケびったりで象カステラの製作&操演。シンナーでラリったのは
この腹の中の内貼り作業中。でも日本縦断ロケ生活、象楽しかった。)





鯨井さんがいなければ、材料を配達してなければ、注文しなければ
まったく俺は東京で夢から突き放され、普通の仕事に就いてたかもです。


フリーの造型お手伝いだった俺は、それから仕事によっていろんな工房を
渡り歩いて鯨井さんところもたまーにのお手伝いになっていき
最後の鯨井仕事は黒沢明の映画。ヘビを作りました。


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この時もいろいろ感動があったんですがまあそれはそれとして、
とにかくこれキッカケで俺は造形稼業から足を洗い、マンガ原作や脚本の方に。
いやもう黒澤組は凄かったぜ。


で、いろいろあって脚本から原型に移って、もう10何年。
俺はサンダーロードスタイルを名乗り始めWFに出るようになりました。
そこで何度か鯨井さんの姿を会場でお見掛けするも、俺にとっては
土下座した頃となんも関係性が変わらず怖いし、雲の上だし、
俺の都合で話かけるなんてちょっとどうかと思っちゃうくらい
「格」の違いを感じてたのでなかなか話しかけられない。
うわー鯨井さん見ちゃった、あそこにいる、どうしよう!みたいな。

そんなにお世話になったと思ってるならちゃんと挨拶しなきゃダメだと
ツレアイに怒られても、やっぱりまだ萎縮するわけです。
普段の俺のデケー態度知ってる人は驚くくらい、素の若造に戻らされる。


それからフェイスブックで過去の作品をアップしてる鯨井さんを見つけ
そこでようやく意を決してご挨拶できたという始末。
とんだ腰抜けです。


で、先日のWF。
はい、ここからが本題。

もはやWFではなくCCPの物販手伝いイベントと化し、行列案内の
悲しいポンコツロボと化している俺の前に、鯨井さんが!!

一気に緊張がマックスになりましたが、

その手に!

鯨井さんの手にはあの時みたいな小さな手書きのメモが握られてて、
そこに本日のToDoリスト、訪問するディーラー名が書かれてまして、
その中に俺の名前が見えたわけです!

メモを見た瞬間、俺、この光景を一生忘れない、と思いました。

うわ、ずっと鯨井さんだ!!
しかもこんな不義理な俺を訪問先の勘定に入れてくれてる・・・

反射的に涙が噴き出そうになりましたが、とにかくブースの前にご案内し
これ作ったんです、あれ作ったんです、どれくらいかかりましたと
18の時と同じように、初めて自宅に材料を届けてもらった夜と同じように
作品を見せて必死のご説明。
どうやって話が終わったのか覚えてないくらい。
ニコニコしてなんかすげー優しいなというのを感じたくらい。

後に落ち着いて、フェイスブックでご訪問感謝のご挨拶したら

いつも会っているような再会でしたが、何十年振りの再会でしたね。
これからも我が道を進んで下さい。

という言葉をいただきました。

頑張ります。頑張りますとも。頑張らせていただきます。
あの時声をかけていただいた迷子の子犬は、立派な野良犬になりました。
腕一本で勝負し続けて、どうにかシブトク生き残っております。

他の皆さんにとって鯨井さんがどんな存在なのかはわからないし
知ってる人も多いから、お前何言ってんの?と思われそうですが
俺は拾って貰ったのが心に刻まれてるんで、やっぱし出会った頃の若造に
気持ちが戻っちゃうんすね。改めて、感謝を深くしました。
俺も若手に優しくし、造型し続けていきます。と思いました。


ってことがWFでありました、っつー屁みたいな話。
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